この世にはおおよそ2つの人類が存在する。
1つは、美味しい食事、暖かな寝床、家族の温もり、願えば欲しいものなどいつでも手に入れることの出来る世界で、飢えなども知らず誰もが当然のように生きている"人間"。
1つは、飢えと寒さと孤独に蝕まれながら、どんなに願っても足掻いても欲しいもの一つ手に入れることの出来ない世界で、死と隣り合わせにただ宛もなく彷徨い続ける"ゴミ"。
ゴミと呼ばれる人類には、人権は勿論、人が誰しも持ちうる"未来"そのものが存在しない。
要らないモノとしてあわや存在すら忘れ去られたそのゴミ達は、救いの無いそのゴミの世界でただひたすらに、懸命に、必死に生き続けている。
しかしそんな世界で生きる人間に、救いの手を差し伸べる存在があった。
ある所では[神様]などと呼ばれるその存在は、ゴミの世界に未来あるべき子供達を救う為の楽園を築き上げたのだとか。
そしてその神様に選ばれた少数の子供達は、飢えにも孤独にも寒さにも震える必要のない、暖かな寝床と食事と"家族"と共に幸せに暮らせるのだとか。
その組織の名を、[天蓋]と言う。
彼らは全てを失った者たちに、"愛"の温もりと、当たり前に迎えられる"明日"を与えている。
そしてその天蓋が生み出した楽園に暮らす14人の子供達は、今日も小鳥の囀りを聞いて、暖かな光によって微睡みから目を覚ますのだ。
「おはよー!朝だよサビク!起きて起きて!」
桃色の髪を光に照らしながら、天真爛漫と呼ぶに相応しい小さな少女は、未だ夢の中に落ちたままの青年の上に跨り鈴のような声を張り上げる。
「ん〜〜………まだ寝たい…あと5分……」
「ダーーメ!!今日はシスターのお手伝いするってお約束したでしょ!」
そう言って少女は、容赦なく青年から布団を剥ぎ取った。ひんやりとした空気に触れ一気に微睡みから覚醒した青年は、ガバッと起き上がると同時、少女に大きくハグをした。
「きゃー!もう、サビクってば朝から甘えん坊ねなんだから!」
「おはよぉチェカ、今日も1番に起きたの?偉いねぇ」
「えへん!これじゃあ私の方がお姉ちゃんだね」
「チェカが〜?ないない」
和気あいあいと話すサビクとチェカと呼ばれる2人は、一頻りベッドの上ではしゃいだ後、それぞれが身支度を済ませていった。
「みんなはまだ寝てるの?」
「うん、きっとまだだと思う。サビク起こしに行ってあげて」
「はいは〜い」
そうのんびり返事をしたあと、サビクは階段を1つ、2つ、ギシギシと音を立てながら上がって行き、ひとつの部屋の扉の前で立ち止まる。
耳をすませば聞こえてくる、心地よい小さな寝息。
愛おしさと幸せに頬を緩ませながら、サビクはがちゃりと、扉を開いた。そして優しい声で、そこに眠る家族に声をかける。
「おはよう、俺の可愛い兄弟たち。朝だよ!」
その声を聞いて、今日も幸せな朝を迎える事になる12人の子供達は、ゆっくりと眠りから覚めるのであった。
…神の救いの手と呼ばれたそれが、もしも地獄に吊るされた蜘蛛の糸だったということを知れば。この小さな命は、果たしてどんな悲劇と喜劇を見せてくれるのだろうか。
『よし!準備オッケー!…ふふふ、楽しみだなあ。ボクの可愛い子供達。どんなストーリーが見れるかなあ?楽しみだね』
不敵なまでのその笑い声は、誰に届くことなく暗い部屋に木霊する。
※この創作はフィクションです。
実在する団体・個人とは関係ありません。
※3L要素(異性愛・同性愛描写)が含まれる可能性があります。
※暴力・流血表現、ロスト、死ネタ、R指定要素あり。
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