ストーリー


第八話「懇篤人の為ならず」(後編)

 

 

 

 

折りたたむ

 

     ✝︎


誰かを想う強い気持ちには人を強くさせる力があるという。


人間が秘めた想いの強さで成り立つモノを、あの時自分ははじめて目にした。


彼女達の選んだモノは、なんて美しいんだろうと思った。


同時に、なんて残酷なんだろうとも。


……どうしたらよかったんだろう


何が、間違っていたんだろう




昨夜。ゲームへの出場宣言を受けたセシリアは、まるで物怖じする様子もなくいつも通りの様子でいた。早起きした彼女はシスターの仕事の手伝いをこなし、今までと変わりない、いつもと同じ生活を送っている。


ただいつもと違うことがあるとすれば、前と比べて少しだけ、孤児院内が静かになっただけ。


だけど、それだけだった。


ほんの少し静けさを増した事を除けば、彼女にとって今の生活は殆ど今までの暮らしと大して変わりはないのだ。


家族の何人かが居なくなった今。彼女は、何もかも、全て、いつも通りだった。


「そうだ、花壇のお花の水やりでもしてこよう」

そう考えたセシリアは、ご機嫌な足取りで館の外の方へと向かった。


窓から優しく照らすお日様は暖かくて、小鳥の囀りは心地よくて。その全てが日常を型どっていた。


最初は、孤児院を包み込む静かなこの空気が寂しくて仕方がなかった。ぽっかり空いた食卓の席を見ては悲しくなるばかりだった。


だけど今は違う。セシリアはもう決して、家族の居ない寂しさに泣くことは無い。


外へと繋がる扉の前までやって来ると、セシリアはギィ、と扉を開いた。外はとても天気がよくて、開いた扉から差し込む太陽が眩しかった。


こんな天気の中で鬼ごっこでもして遊べたらすっごく楽しいだろうな。そんなことを考えながら、セシリアは花壇がある方へと向かう。


「あ」

しかし。どうやら先客がいたようで。セシリアは花壇の前で花に水をやる薄桃色の髪の少女に声をかけた。


……何してるの?チェカ」

「!………せ、セシリア」

パッと顔を上げたチェカはジョウロを両手に驚いた表情でセシリアを見た。


「何って、お花にお水あげてるの」

「ふーん今日は、サビクと一緒じゃないんだ?」

「うん、……サビク、まだ寝てる、から

「そっか」


チェカはぎこちなくそう言ってセシリアから目を逸らした。その様子はいつものチェカとは全く違っていて、まるでセシリアに対して怯えてるような、怖がっているような様子だった。


それもそうだろう。目の前にいるのは  今日、命を掛けて殺し合うことになる対戦相手なのだから。


セシリアはそこから動くことなく、チェカの隣でぼんやりと花壇を見つめていた。聞こえるのは花々が水を弾く音だけで、2人の間には重苦しい時間が流れていた。


「ねえ  チェカ」

そんな沈黙を破ったのはセシリアの方だった。チェカはびくりと狼狽え、恐る恐るセシリアの方を見る。彼女はチェカの目を真っ直ぐに見つめて聞いた。


「あのね、チェカのお願いごとって、なに?」

?チェカの、おねがい……?」

彼女の突然のその問いに、チェカは不安を紛らわすが如くぎゅっとジョウロを両手で抱きしめた。


「ちぇ、チェカは…………

彼女は視線を落としたり、さ迷わせたりさせていた。目の前で自分を見つめるセシリアはいつもと同じ姿なのに、なぜだか怖く感じて目を合わせられなかった。そして数秒の間の後、チェカは緊張で強ばった声と表情で、言った。


「チェカの、おねがいは、……ゴミの外にいる、チェカのほんとうの家族に会うことだよ」


チェカのその答えに、セシリアは何も言わなかった。それがチェカの不安をいっそう煽る。2人を取り巻く空間に、極く微妙な、神経的な不調和が広がっていくような気がした。


何か間違えてしまったのだろうか。

…………セシリア?」

そんな恐怖を感じる沈黙に耐えられず、チェカはおずおずと、セシリアの方を見る。


しかしチェカは、彼女の顔を見て、驚いたように目を丸くする。


……セシリアの表情は、いつも自分に向ける表情とは違う、優しくて、でもどこかちょっぴり悲しそうな、そんな顔をしていたから。その表情の意味がわからなくて、チェカは小さく小首を傾げた。


セシリア?どうしたの?」

「ううん。なんでもない。……ね、チェカ。セシルと一緒に、朝ごはんの準備しよ」

「う、うんいいよ」

チェカが心配そうに彼女を見ると、セシリアは緩く首を横に振り、存外穏やかな笑顔で笑った。


そしてセシリアは、冷たくなったチェカの手をきゅっと握り、そのまま彼女を連れて館の中へと戻って行く。


セシリアの手が、じわじわと冷えたチェカの手を温めていく。だけどチェカの心に渦巻いた不穏な空気は、未だ晴れないままだった。


✝︎✝︎


朝食の時間は相変わらず静かだった。この孤児院で殺し合いが始まってからはいつもこんな感じだったから、もう慣れてしまったけど。

大体のやるべき事を終わらせたセシリアは、食器を片付け、ゲームの開始を待っているところだった。


……最初はあんなに怖いと感じていたゲーム。それなのに自分は今、ちっとも恐怖を感じていなくて、どこか安心した気持ちでいた。……何だか不思議な感覚だった。


「セシルちゃん!!」

ふと。後ろの方から聞き覚えのある少女の声がして。セシリアはパッとそちらを振り向いて、名前を呼んだ。

「イソラ!」


イソラは、どこか焦ったような、そんな表情でこちらへ駆けてきた。対するセシリアは、親友に会えた喜びか、へにゃりと表情を緩ませて笑った。


「どうしたの?イソラ、セシルに会いに来てくれたの?」

「う、うん、そうなんだけど、」

イソラは彼女の様子を見てほんの僅かに動揺する。彼女が、ゲームに選ばれたとは思えないほど、明るい雰囲気でいたから。


………ねぇ、セシルちゃん……すごく不安だよ

イソラは縋るように、きゅ、っとセシリアの服の裾を掴んで言った。

「セシルちゃんもチェカちゃんも、私の大切な親友で、大切な家族、だから……その、」


イソラの手は僅かに震えていた。今まで何人もの家族をこうして見送ってきた。彼らの無事を祈って待っていた。でも、その誰もが、もう二度と帰ってくることはなかった。必ず誰かが居なくなると分かっていながら笑顔で見送る事など、イソラには出来なかった。


縋ったって仕方ないことは分かってる。今もこうしている間に親友の彼女を困らせてしまうかもしれない。だけど、この手を離して、行ってらっしゃいなんて、言えなくて。


イソラが、押しつぶされそうな不安と恐怖に震えていると。セシリアの暖かな手が、震える彼女の手を優しく包み込んだ。イソラは、ハッとセシリアの顔を見た。


「大丈夫だよ、イソラ。セシルもう怖くないから。悲しくないから。寂しくないから。あの時エスピダがいなくなった時。イソラ、セシルに言ってくれたでしょ?エスピダはずっとここにいるって、セシルたちのそばで見守ってくれてるって」


「イソラが、そう言ってセシルの背中を押してくれたから、セシル、つよくなったんだよ。全部イソラのおかげなの。イソラが、セシルに教えてくれたんだよ」


セシリアは、イソラの心を握りしめるような、太陽の下咲く花々のような明るい笑みで笑っていた。イソラの不安も、恐怖も、みんな取り払ってくれるような、眩しい笑顔


………私、が……セシルちゃんを?」

「うん。あの時イソラが居なかったら、セシルきっとずっと悲しいままだった。みんながここにいてくれてるって知らなかったら、ずっと寂しくて泣いてたと思う」


自分の言葉が、彼女をこれ程までに救っていたなんて知らなかった。思いもしなかった。昨日彼が言ったみたいに、こんな自分が、本当に誰かの役に立てているなんて。


イソラは視線を落とし、小さな声で、伺うように言った。

「わたし、………セシリアちゃんの、役に立ててたのかなぁ?」

「うん、もちろん」


セシリアはそう微笑んだ。その笑顔を見て、何故かこちらが救われたような気分になる。


もしも、自分の言葉が本当に彼女へ希望を与えていれたのだとしたら。憧れていた青い鳥に、ほんの少しでも近づけていたのだとしたら。

少しは、自信を持っても、いいのだろうか。


「イソラセシル、絶対頑張るから。イソラの幸せのためにも、みんなの幸せの為にも、セシルの幸せの為にも、………いっぱいいっぱい、頑張るから」

彼女はそう言って、イソラの手を両手で優しくぎゅっと握った。


人の幸せを切に願う彼女の姿は、キラキラとしていて、眩しかった。この手を離すのは苦しいけれど。彼女の笑顔を、その言葉を、信じてみたいと思った。だから、イソラはもう彼女に縋ったりしない。


「うん、、うん。行ってらっしゃい、セシルちゃん!」

そう笑って、見送るのだ。例えこのゲームがどんな結果になったとしても、自分はそれを受け入れるだけ。彼女のセシリアの精一杯を、見守るだけ。


『__さて、みんな挨拶は済んだかな?そろそろゲームの時間だから対象者はコロシアムの方に移動してね!あと、前回みたいな事が起きないように一応釘を刺しとくけど、ゲーム放棄は処罰対象だから時間厳守でね〜』


キィンという音と共にアーテルがそう言った。前回のゲームのことを思い出して、胸がキュッと苦しくなった。だけど今は、悲しい顔を見せてはいけないと思うから。


「じゃあイソラ  セシル、いってくる」

彼女の暖かな手がするりと離れていく。イソラもまた、その温もりを名残惜しく手放した。


くるりと踵を返し、彼女は外へと向かっていく。去っていく家族の背を見送るのは、これで何回目だろうか。止めたくなる衝動をぎゅっと抑え込んで、イソラはセシリアの背を見る。


例えセシリアの希望がどんな結末を迎えたとしても。自分は彼女を信じようと思った。


そして、セシリアの背は 見えなくなった。


✝︎✝︎✝︎


コロシアムの前で、小さな少女2人は顔を合わせないまま立っていた。チェカは未だ不安そうにセシリアから距離をとっていた。


「チェカ」

「!なに?」

突然声をかけられチェカがびくりと肩を震わすと、セシリアが、片手をこちらへ差し出してきた。


「手、つなご。そしたらきっと怖くないよ」

「!」

セシリアはふわりと優しく微笑んでそう言った。その笑顔から、彼女は心から自分のことを想ってくれているのだと分かる。


だから、チェカも迷わずその手を取った。そしたら、セシリアは安心させるようにチェカの手をきゅっと握ってくれた。


しかし、何故だろう。こんなにも暖かい彼女の優しさに触れているのに、彼女を取り巻く不穏な空気はいつまで経っても拭えない。いつも喧嘩ばかりしていたから彼女の優しさに慣れていないだけなのだろうか?


『わあ、2人とも仲良しさんだねえ〜、これから殺し合う同士には見えないや!それじゃあ、門を開くよ〜』

アーテルがそう言ったと同時、大きな音を立てて目の前の門が開いていく。動揺を見せるチェカとは反対に、セシリアは迷わず中へと進んでいく。彼女に引きこまれるようにして、チェカも中へと入る。


『中に入ったら真ん中に立ってね、そしたらすぐ始めるよ』

セシリアはチェカの手を優しく握ったまま、真ん中の方へと向かった。何も言わないセシリアが少しだけ怖い気がした。


『準備okだね、それじゃあ2人とも、衝撃に備えて〜』


彼がそう言ったと同時、空間がぐにゃりと歪む。ああ、今まで去っていった家族たちが見ていた景色はこんな世界だったのか。


鋭い痛みの後、世界はみるみるうちに姿を変えていく。もう驚きはしない、何度もモニターの前で見てきたあの景色。


『ようこそ、ゴミの世界へ〜!ここは2人の記憶を元に作られたゴミの世界、……って、ここまで来たらもう説明はいらないか!あとは君たちがこのゲームの終わりを導くんだよ』


アーテルはくつくつと笑ってそう言った。ずっと思っていたけど、何だか彼の笑い方は誰かに似ているな。なんてチェカはぼんやりと考えた。


『それじゃあボクは観測に移るよ、あとは2人の自由にしてね!それじゃ』

そう言うとプツリと音は途絶えた。この荒廃した世界で少女たちはついぞ2人きりとなった。


「セシリアチェカ、向こういってくるから……

何だかいてもたっても居られない気持ちになって、チェカはセシリアの手を離そうとする。が。


ねえ、チェカ」


急に、セシリアに声をかけられる。それと同時に、彼女は緩くチェカの手を握りしめた。どきりと心臓を撥ねさせて、チェカはセシリアの方を振り返る。


セシリアはいつもと同じ表情をしていた。喧嘩をしていた時の顔でもなく、今朝見た悲しそうな顔でもない、いつもの顔。だけど、何かが少し、違った。


「なぁに?セシリア」

今しがた抱いた違和感を、不安を悟られないよう、チェカも笑って首を傾げた。変わらない表情


「あのね、」


1分にも、1秒にも感じた間の後、彼女が言った言葉は、


「セシルに、チェカを殺させて欲しいの」


チェカに、酷い衝撃を与えた。


………ぇ」

自身の手を握るセシリアの心地よい温もりが、急速に不快なものへと変わる。

「どうして、急にそんなこと

「だって、チェカもセシルの大事な家族なんだもん」

「へ?」


彼女の言葉の意味が分からなかった。


「チェカとはいっつも喧嘩してばっかだったよね。サビクを取り合ったり、言い合いこしたりセシル、サビクとずっと一緒にいるチェカのこと、嫌だなあって思ってたよ。」


「でも、それでもチェカはセシルの大切な家族のひとりで、ずっと一緒にいて欲しい、いなくなって欲しくない人だから。だから、セシルに殺されて欲しいの」


なにを、言っているのだろう。彼女の言葉は何一つ理解することが出来ない。

「っわ、わかんないよ、どうしてそんなこというの?チェカ、何かわるいことした?」

恐怖に声を震わせるチェカがそう言うと、セシリアはふるふると首を振った。


「イソラがね、教えてくれたの」


「死んだみんなはいなくなってなんかない、セシル達のことを見守ってくれてるって  ずっとそばに居てくれてるって」


………誰が死んだとしても、みんなずっとここにいるんだよ   セシルたち家族は、ずっとずっと一緒にいるんだよ」


「セシル、家族のみんなが好き。とっても大好き。どこにも行って欲しくないし、ずっとここで、一緒にくらしていたい。」


「セシルのお願いごとは、みんなとずっと一緒に過ごすこと」


「チェカが、サビクが、みんなが、ここを離れてどこかに行っちゃうぐらいなら」


「セシル、みんなを殺してでも止める。……外になんて、行かせたりしない、行かせたくない」


セシリアは、迷うことなく、ハッキリとそう言った。その瞳に揺るぎはない。チェカを握る手を緩めはしない。彼女は、本気だ。


それを悟って、チェカの全身に悪寒が走る。それは、恐怖を感じたが故のものであり、命の危機を感じたが故のもの。


……だ」

チェカが、小さな声でそう言った。

「?なあに?」

よく聞こえなくて、セシリアが彼女に目線を合わせるように小さく屈んだ時


「ッッ絶対にやだ!!!!!!!!!」


チェカが、勢いよくセシリアを突き飛ばした。突然のそれに反応することが出来なかったセシリアは、ついチェカの手を離してしまい地面へと倒れる。その隙をついて、チェカは街の中へと逃げ出した。


「ッまってよ、チェカ!!」

彼女を、見失うわけにはいかない。セシリアもまた急いで、街の中へと駆け出した。


✝︎✝︎✝︎✝︎


ボロボロになった町を、時が止まったまま朽ちてしまった町を駆ける。


小さい頃はお腹もすいてて、体に力も入らなくて、こんな風には走れなかった。だから、こうしてこの町を走るのはほんの少しだけ新鮮だな、なんて呑気なことを考える。


目の前を走るチェカをまだ見失ってはいない。セシルは自分のお願い事を叶えるためにも、みんなの幸せの為にも、あの子を、殺さないといけない。


だってチェカ、もしお願いごとが叶ったら、ここからいなくなっちゃうんでしょ?サビクも一緒に連れて、外の世界に行っちゃうんでしょ?


そんなのだめ、絶対だめ。チェカは外の世界がどんなに危なくて苦しいところなのか、知らないんだよ。あんなとこに行っちゃだめなんだよ。


考えれば考えるほど、願いへの想いは強くなっていく。セシルを突き動かす感情が、どんどん大きくなっていく。


………チェカは、知らないだけなんだ。


外の世界には悪い大人がたくさんいることを。愛も、光も、明日も未来も無い、絶望しか存在しないことを。自分を傷つける人しかいないことを。……父と母という存在が、どれほど残酷な存在なのかを。


体中を殴られる痛みも、目を抉り取られる痛みも、体内を犯される辛さも、食事を与えられない辛さも、家族に売られる苦しみも、召使いみたいにこき使われる苦しみも、もう二度と生きることはできないんだという絶望も。


外の世界が、どれほど残酷で、この孤児院がどれほど幸せな場所なのか、知らないだけなんだよ。だから、外に行きたいなんて言えるんでしょ?


あなたには、サビクっていう優しい"本当の家族"がいるから分からないんだろうけど。ほんとうのママやパパなんて、血が繋がっただけの赤の他人なんだよ。あなたが思ってるほど、外の世界は優しくなんてないんだよ。


「まってよチェカ!!逃げないで!」

これは全部チェカのためなんだよ。チェカにはこの場所で、優しい家族に囲まれて、幸せなまま死んで欲しいから。


こっちを振り向くことも、立ち止まることもしないチェカに叫ぶけど、やっぱりチェカは止まらなかった。でもだんだん距離は縮まってる。あと少しで、追いつけるかも


セシルは手を伸ばした。チェカとの距離はそんなに空いてない。あとちょっとで、届く。あとちょっとで、捕まえれる。


そうしたら、全部全部、終わるんだよ。


チェカが僅かによろけてスピードがおちる。一気に距離を縮めることが出来た。


セシルはその隙をついて


目の前のチェカの腕を


掴もうとして___


『譌ゥ縺乗ュゥ縺代?√%縺ョ繝懊Ο髮大キセ縺鯉シ』


突然聞こえた大声に、心臓をわし掴まれたような衝撃を覚える。


すぐ横から聞こえたそれに動揺してピタッと走るのをやめた。チェカはそのまま逃げ去っていってしまった。


言葉までは分からなかった、だけど確かに聞こえた大きな声。


どくどくする心臓の音を聞きながら、セシルは、声のする方を向いた。


そこには大きな2つの影と、小さな影がいた。


『縺帙縺九¥鬮倥驥第鴛縺」縺ヲ雋キ縺」縺溘?縺ォ繧阪¥縺ォ蜒阪¢繧ゅ@縺ュ縺医@鬆ュ繧よが縺??√→繧薙繧エ繝溘§??


『蟆代@縺ッ蠖ケ縺ォ遶九縺九諤昴縺ヲ縺溘¢縺ゥ縲b縺??□縺ェ縲ゅ&縺」縺輔謐ィ縺ヲ縺。縺セ縺翫≧』


大きな影は、小さな影をゴミみたいに地面に放り捨てて、下品な笑いを上げながらどこかへ去ってしまった。


セシルはじっと、その小さな影を見つめていた。


小さな影は地面を這いずりながら、必死に、生きようとしていた。もがいていた。


その時、小さな、掠れた声が聞こえた。


『逞帙>繧遺?ヲ諤悶>繧遺?ヲ闍ヲ縺励>繧遺?ヲ霎帙>繧遺?ヲ謔イ縺励>繧遺?ヲ蟇ゅ@縺?h窶ヲ』


言葉は分からなかった。だけどセシルには、その影の悲痛な叫びが痛いほど伝わった。


セシルは、迷わずそっちへ向かって歩いていく。影の目の前に立つと、その影は真っ黒な姿でセシルを見上げた、……ような気がした。


セシルは影の近くにしゃがみ込む。そして、それを見つめながら言う。


………とっても、痛かったね」


「とっても、怖かったね」


「とっても、苦しかったね」

「とっても、つらかったね」


「とっても悲しくて、とっても寂しかったね」


影は多分、セシルのことをじっと見上げてたと思う。だからセシルも、目を離さずに、じっとそれを見つめる。


「あなたがどんなに苦しい思いをしてきたのか、セシル、わかってるよ。ずっと痛かったよね、ずっと寂しかったよね、ずっと悲しかったよね」


「でもねあなたは救われるんだよ。とっても優しい人達の手によって。とっても暖かい家族の元に。」


「そこには美味しいご飯もあって、ふかふかなベッドもあって、優しい兄弟がいて、沢山愛してくれるぱぱとままがいて、一緒に遊んでくれる友達がいて、悲しい時に寄り添ってくれる親友がいて、幸せが、たくさんあるんだよ」


「もう痛い思いをしなくていい  もう苦しい思いをしなくていい。あなたには、家族がいるから。あなたは、幸せになれるんだよ」


セシルは、幸せになれたんだよ」


影が、ゆらゆらと揺れ動く。真っ黒なその手を、セシルの方へ伸ばしてきた。


「家族のみんなには、ここでずっと幸せのままでいてほしい。外の世界の地獄を知らないまま、ずっと一緒にいて欲しいから」

セシルは、伸ばされた影の手を掴む。


「だから  セシル  絶対に、諦めないよ」


握りしめた影の手が、どろりと解けるように融解していく。


やがて形を失った影はその姿を変え


いつの間にかセシルの手には


一丁の拳銃が握られていた。


✝︎✝︎✝︎✝︎


サビクとは  小さな時からずっと一緒だった。


覚えてないぐらいずっと昔。小さい頃から一緒で、寒いときも、暑いときも、悲しいときも、嬉しいときも、お腹がすいた時も、痛い時も、サビクはずっとチェカと一緒にいてくれた。


ゴミの世界で、サビクはどんなに自分が苦しくて辛くて痛い時も、いつもいつもチェカの為に沢山のことをしてくれた。


サビクだけが、チェカにとっての本当の家族だった。


チェカは、サビクの、おにいちゃんの笑顔が大好きだった。


でも、この殺し合いが始まってから、サビクはちっとも笑わなくなっちゃった。


家族思いのサビクは、誰かがいなくなる度にいつもいつも部屋で泣いてばかりだった。


チェカは、それがいやだった。


だから、もしかしたら。


あの時サビクがこの町でチェカにしてくれたみたいに、チェカがいっぱいいっぱい頑張れば、


そしたらきっと、すごいねって。あの優しい笑顔で頭を撫でて、褒めてくれるんじゃないかと思って。


(…サビク  チェカ、もう泣かないよ)


両手いっぱいの決意のフキン


(チェカは、サビクのために)



✝︎✝︎✝︎✝︎✝︎


セシリアはついに、チェカを追い詰めることに成功した。


チェカを見失った時は見つけられるか心配だったけど、彼女がボロボロになった建物の屋上へ登っていくところを見かけてすぐに追いかけた。


そして今、見晴らしのいい屋上の上で、2人きりだった。


……ねえチェカ、お願いだから言うこと聞いて。セシルはただチェカに居なくなってほしくないだけなの」

「っ来ないでってば!!!」

チェカの背後は行き止まり。袋小路となった今どこにも逃げ場などなかった。


「チェカ、チェカ死ぬなんて絶対いや!死にたくない、死にたくない!外に出て、本当の家族に会いたいの!それまで絶対にしにたくないの!」

チェカは泣きそうな顔でそう叫んだ。その言葉を聞いて、セシリアは、きゅっと唇を噛んだ。


「ッ外の世界は危ないんだよ!!そんなところに行ったって幸せになれるわけない!外の世界へ行って、チェカやサビクに絶望して欲しくない!孤児院にいればずっと幸せなままでいれるのに!どうして分かってくれないの?!」


セシリアの大きな声に、チェカはビクッと震える。彼女の威圧に圧倒されたチェカは、怯えた眼差しでセシリアを見る。


……お願い、チェカ。セシルはただ皆とずっと一緒にいたいだけなの。"この孤児院で"、家族とずっと一緒にいたいだけなの」


「あんな危険なところに、みんなを行かせたくないの幸せが詰まったこの場所で、絶望を知らず、ずっと幸せなままでいてほしいだけなの」


……チェカのこと、嫌いなんかじゃないよ。チェカもサビクも家族のみんなも、大好きで、大事だから、こうするの」


セシリアは懇願するようにチェカへそう言った。その声は先程の大きな声とは違ってとても穏やかで、宥めるような優しい声色だった。


「お願いだからチェカ。絶対に痛くしないって約束するから   ここで死んで」

セシリアは、チェカの瞳をじっと見つめたままそう言った。


チェカは、何も言わず、静かに瞳を伏せる。そして、考えるのだ。


家族のみんなのこと。この孤児院での思い出のこと。朝早くに起きて、みんなで朝食を食べて、シスターや神父様のお手伝いをして、お外を走り回ったり、お家でお絵描きしたりして遊んで、みんなで仲良く楽しく過ごした毎日のこと。


……この場所は、ゴミの世界で生きていた時よりも、確かにずっと幸せで、暖かくて、平和な場所だった。


彼女の言うとおり…1度はゴミの世界外に捨てられたのだから、外の世界にはきっとここ以上に暖かくて優しい場所は無いのだと思う。


彼女の言うとおり………この場所こそが本当の楽園であり、ここに居ればずっと、幸せなんだと思う。そしたらきっと、今もこんなに怖い思いをしなくてすむ。


……

チェカは、ゆっくり目を開いた。目の前には、真っ直ぐ自分を見つめる青色の瞳。


大きく深呼吸をする。震える体を押さえ付けるように唇を噛み


彼女は、叫んだ。


「ッッッそれでも!!!!チェカは諦めない!!願いを叶えて、サビクと一緒に本当のパパとママの所に行きたい!!!」


空気を、ビリビリと震わせるようなその叫びは、彼女の心からの願い。


セシリアは、わかっていた。自分が願いを叶える為に必死になってるのと同じように、チェカもまた、己の願いを叶える為に必死なのだということを。


…………わかった。じゃあ、もういい。セシル  同じこと二度も言わないから」


そう言って彼女は拳銃を取り出した。チェカは大きく目を見開く。


セシリアは拳銃を両手で持ち、しっかりと、チェカの方へと構える。


そうして彼女は呼吸を吐き出して、引き金へ手をかける。


………………ばいばい チェカ」


そして、彼女が引き金を引いたと同時


「ッッッしにたくない!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!」


パンッッッ。


助けを縋る、チェカの悲鳴を描き消すように、乾いた銃声が鳴り響いた。



……


………セシリアの両手は、カタカタと震えている。


目の前のチェカは、両耳を塞ぎ、啜り泣く声を上げながら、しゃがみこんでいた。


外した。


発射と同時に、間一髪のところでチェカがしゃがんだからだった。


もう一度撃とう。彼女はもうこちらを見ていない。次は必ず殺せる。


だけど。


「っぅぐす、サビク、さびく……さびく、さびくさびく……


兄の名を呼びながら恐怖に震え泣くチェカの姿に、体が、震える。

彼女をここで殺さなければいけない。外へ出てしまえばきっと、絶望してしまうから。ここにいる方が幸せなはずだから。


でも、彼女がチェカが本当にここでの生活を望んでいないのだとしたら。


ここで死ぬことが、彼女にとっての幸せにならないのだとしたら。"彼女のため"に、ならないのだとしたら。


………セシル、………何の為に、チェカを殺せばいいの?」


セシリアは、両手に構えた銃を下ろす。大きく揺れたセシリアの決意の惑いに呼応したように、先程まであったはずの銃は跡形もなく姿を消してしまった。


……わかんないよ………セシル、ただみんなにここにいて欲しいだけなのにここにいれば幸せだと思ってたのにこうする事が、みんなの為だと思ったのにそうじゃないなら、セシル、どうしたらいいの、」


じわりと涙が滲む。自分は、家族を絶望させない為に銃を取った。死んでしまえばどこにも行かない、ずっとそばに居てくれる、ずっと一緒に居れる。その願いを叶える為にも、家族を殺すことを選んだ。


全部全部、"家族の為"のはずだった。そしてそれが自分の願いでもあった。だけど、目の前で怯え泣く少女の姿を見て。彼女の唯一の救いの道が崩れてしまった。


チェカには、サビクという"本当の家族"がいる。それは自分には何一つ分からないものだった。本当の家族に捨てられた自分には、本当の家族のために動くチェカのことなど何一つ理解できなかった。


ただ、1つ分かったことがあるとすれば。


彼女には、[本当の家族]という、自分には無いものを持っているということ。

そして、セシリアとは違って、彼女にとっての"本当の家族"は、ここにいる子供たちだけではないということ。


…………

セシリアは、自分の頭に結ばれたリボンに触れる。

それはかつて自分にもあった、本当の家族からの愛。唯一両親からもらった、プレゼント。忘れていた、記憶。


きっとチェカとサビクには、そんな風に愛してくれる家族が、両親が、いたのだろうと。そう思った。


…………………………ねえチェカセシル   間違ってたのかなあ」

先程の様子とは打って変わって子供のように泣くセシリアをチェカは驚いたように目を見開いて見ていた。


セシリアの手元には、もう自分を脅かす武器はない。チェカは、震える足で、勇気を振り絞って立ち上がった。そして、11ゆっくりと、セシリアの方へと歩みを進める。


セシリアが、チェカ達のこと大好きだっていうの、わかってるよ。チェカのこと 大事な家族と思ってくれててチェカの為を思ってくれてたことも、わかってる」


「でもセシリアと同じように、チェカも、サビクの為を思ってるの」


「だからね、セシリア」


チェカはセシリアの前へ立った。眩しい太陽に目を瞬かせながらセシリアが彼女を見上げると、


チェカは、泣き濡れた瞳で、花が綻ぶようにへにゃりと笑った。


「チェカもセシリアも、間違ってないんだよ。家族を好きだと思うことも、家族のためを思うことも、絶対に絶対に、間違いなんかじゃないんだよ」


ひまわりのような満面の笑顔に。セシリアの胸がじわじわと熱くなる。自分は彼女を殺そうとしたのに、チェカは優しく、こちらへ手をさし伸ばしてくれる。



ほんとにおかしなやつ。あんな事をしたのに。どうしてチェカは、セシルにそんなふうにしてくれるの?


………ごめん チェカ」

セシリアは彼女の手を取った。自分たちは殺し合わなければいけないのに、こんな状況で仲直りなんて変な話だけど。それでも今この瞬間、彼女の手を拒むことは出来なかった。


雲の隙間から差し込む太陽の光がスポットライトのように少女たちを照らす。太陽は優しく穏やかに、彼女達の美しい家族愛を、煌々と照らしている。


これから、どうしよっか」

チェカを殺すことを諦め、手にしていたはずの銃も消えてしまった今。このゲームを終わらせるには、どうしたらいいのか。こんな事になるとは思ってもおらず、セシリアは困ったように肩を竦めた。


彼女を殺すための武器はなくなった。チェカも武器を持ってる様子はない。ならばこの状況を打破するにはどうするべきなのか。


無難に出口を探しに行ってみようか。それとも救済ルールを使ってみようか。


それとも自分が、ここから飛び降りてみようか。


あのね  セシリア……チェカ、セシリアの家族を想う気持ち  本当にすっごく分かってるんだ」


セシリアがそんな事を考えていると、ふとチェカがそんなことを言った。セシリアは彼女の方を見る。


「チェカもねセシリアがチェカ達を大切に想ってるみたいに、サビクのこと、すっごくすっごく大切に想ってるの」


チェカが、優しい眼でこちらを見上げた。そして彼女は、ぎゅ、とセシリアの手を優しく握った。


「だからね セシリア」


「チェカのこと


「分かってくれるよね?」


「えっ?」


彼女の言葉の意味が分からず首を傾げると。


突然。空気を切るような音と共に、体に鈍い衝撃が走った。


それと同時に、視界端に、赤い何かが目に映った。


これは一体、何だろう


訳が分からず、セシリアが違和感のある方を見ると


「_________え?」


吹き出す赤は、自分の血


先程までチェカと繋がれていたはずの自分の腕が  何故か  宙を  舞っていて


「__ひ、」


「ッッッぁぁああああぁぁああああああぁぁあぁぁぁぁぁぁああああああああああああぁぁぁぁぁぁぁあぁあぁあああぁぁああぁあぁぁぁああぁあ""""!!!!!!!!!!!!」


セシリアは絶叫と共に地面へ倒れる。


身体から血が滝のように溢れ出す。有り得ないほどの痛みに襲われる。飛んだ腕は、まるで人形の腕みたいにぐちゃりと地面に落ちている。


痛い。痛い。痛い。痛い。痛い。痛い。痛い。痛い。痛い。痛い。痛い。痛い。痛い。痛い。痛い。痛い。痛い。痛い。痛い。痛い。痛い。痛い。痛い。痛い。


どうして?なぜ?なにがおきている?どうしてこんなことに?


腕?が?なんで、セシル、の、腕、腕が  腕が、


痛みにチカチカと点滅する視界の中、訳が分からず混乱していると


「っあはは!すごい!ホントに切れた!」


風鈴を鳴らしたような、無邪気な少女の可愛らしい笑い声が響く。セシリアが、定まらない焦点で声のする方を見ると


「やったよサビク!チェカうまくいった!ちゃんとできたよ!」

斧を両手に持ったチェカが、キャッキャと無邪気に笑っていた。


何で?どうして?


疑問は言葉に出てこない。


「ごめんねセシリアでもチェカ、サビクのためにも絶対にお願いごと叶えなきゃいけないの!」

チェカはいつもの明るい声でそう言った。


「チェカはこれ以上、サビクが悲しむ姿を見たくないの。死んでいくみんなを見て苦しむサビクの姿は見たくないの。サビクを元気にしてあげたいだけなの。……だからチェカ、本当の家族を探そうと思ったの!」


「ここの家族みんなが居なくなっても、本当の家族を本当のパパとママを見つければ、きっとサビクは寂しくならないから!悲しくならないから!その為ならチェカ何だってするよ、セシリアを、みんなを殺してでも、お願い叶えてもらうよ!」


小さな少女の、兄を思う強い気持ち。兄の為ならば、家族をも手にかけることのできる強い気持ち。その気持ちは、セシリアと全く同じもののはずだった。


ただ、天秤にかけたものの大きさが違うだけ。


「__っヒュ、ッぁ、な  で、」

"何で"。声にならない声でセシリアはそう問うた。どうしてこんな事をしたの。どうして手をさし伸ばしたりなんてしたの。どうして、裏切ったの。


その言葉の意味を汲んだのか、チェカは地面に倒れたままの血だらけのセシリアの元へしゃがみこみ、切なそうに、だけどうっすらと笑った。


「だって、ああでもしないとセシリアきっとチェカのこと殺してたでしょ?本当は最初からちっとも怖くなんてなかったけど……怖いって、殺さないでって泣かないと、セシリアなら本気でチェカのこと殺すと思ったから。隙を着くならああするしかないと思って」


彼女はそう言った。それなら、先程自分にかけられたあの言葉も、涙も、手の温もりも、全て、自分を油断させるための演技だったというのか


「それにね、チェカ  別にサビクさえいてくれればあとはどうでもいいの」


「ここのお兄ちゃんお姉ちゃんは優しくて大好きだよ、でもチェカにとって1番大事な家族はサビクだけなの」


「サビクだけが、チェカの本当の家族」


「他の家族なんて、ただのニセモノだもん」


セシリアは、目を見開いた。


セシリアにとってのかけがえのない存在である家族は、大切な人達は、大好きな人達は、チェカにとって、取るに足らないただの"ニセモノ"に過ぎなかったのだと。


……ぅぅう""

セシリアが、血と涙でぐちゃぐちゃになった表情で、チェカの足を掴む。


自分が大切に想っていた家族が、こんな人だったなんて。大切に思っていたのは、自分だけだったなんて。


「ッぅぅぅぅぅうううぅぁぁぁぁああああああぁぁあぁぁぁぁあぁぁぁぁあああああああああ""…!!!!!!!


ろくに力の入らない片方の手で彼女の足をギチギチと掴む。力を入れればいれるほど、傷口から血がぶしゅりと溢れだしてくる。それでも構わずセシリアはチェカの足に爪を食い込ませる。


目の前の少女を殺し損ねた後悔と、家族を愚弄した憎悪と、裏切られた絶望を、胸に渦巻く全ての感情を。悪魔のような、最低な、"家族だったモノ"へと、ぶつける。


「ぅーいたいなあ。もういいよ、チェカ  早く終わらせてサビクのとこ帰るから」

ハァ、とため息を着くと、彼女は自分の足を掴むセシリアの手を振り払い立ち上がった。


彼女は、斧を両手に構えて、クスクスと笑う。そうしてそれを、大きく振り上げる。


「ばいばいセシリア、チェカのために死んでくれてありがとう」


そして彼女はオノを、


迷うことなく、セシリアの背中へ振り下ろした。


「_____ッか   


背中へ走った強烈な痛みと、ぐちゃりという、肉を裂き潰す音が響いたと同時に


世界が、ぐらぐらと歪み形を変え元のコロシアムへと戻っていく。


そして、キィンという耳鳴りが鳴り響いたとき


『____ゲーム終了。お疲れ様、チェカちゃん』


悪魔がゲームの終わりを告げた。

その知らせを聞いたあと、ご機嫌な足取りで開いた門の方へと歩いていく少女の後ろ姿をセシリアは、バチバチと定まらない焦点の中見つめていた。


許さない


許さない、許さない許さない許さない許さない許さない許さない許さない許さない許さない許さない許さない許さない許さない許さない許さない許さない許さない許さない許さない許さない許さない許さない許さない許さない許さない許さない許さない許さない許さない許さない許さない許さない許さない許さない許さない許さない。


ああ  セシルが守ろうとしたものは


セシルの信じた幸せは


こんなのじゃ  なかった  のに


ゆらりと伸ばした血に濡れた手は、決して何も掴むことはない。


✝︎✝︎✝︎✝︎✝︎✝︎


「はあ随分と派手にやったみたいだな


こえが、きこえる


「まぁ特に問題はないようだし、さっさと片付けるぞ」


これは  ぱぱの、こえ?


「ドゥーエ  運ぶのを手伝、……?」


セシルの前に、神父服を着た男の人がしゃがみこんで、目が合った。


ああ、やっぱり、ぱぱだ。


遠くにはままもいて、ままはびっくりした顔でセシルのことみてた。


血と涙でぐちゃぐちゃにぼやけた視界でも、2人のことはすぐにわかった。


ぱぱ、まま、たすけにきてくれたの?


セシルのこと、また救ってくれるの?


……驚いた」


「まさかまだ生きているとは」


__え?


ぱぱ、なにをいってるの?


「早く処理しよう  離れていろドゥーエ」


そう言ってぱぱは、服の裾から銃を取り出して、それをセシルに向けた。


まって  ぱぱ  どうして


「おやすみ  セシリア  君に神の加護があらんことを」


ぱぱは、いつもの、優しい声で笑った。


なんで


セシル


ぱぱのこと


信じて


________ッパン。


夕暮れのコロシアムに、甲高い銃声が響き渡った。