ストーリー


第三話「悔い無き事を」(前編)

 

 

折りたたむ

 

人にはそれぞれの想いがある

それぞれの願いがある

それぞれの、形がある

あの頃はまだ子供で、どうしてこんな事になったかなんて、ぜんぜんわからなかった

けどね、今ならわかるんだ

あの子たちがどれだけの想いでそこに立っていたのか

どれだけの想いで、その結末を選んだのか

…みんな、悪くなかったんだよ

 

眩しい朝日と鳥の鳴き声が無情にも朝がやってきたことを子供たちへと告げる。かつて希望の朝と呼ぶに相応しかったそれは、今やまるで面影を残さない。

寝室はどんよりとした憂鬱な雰囲気に塗れていた。それもそのはず、今日は初めてゲームが行われる日…初めて、人が死ぬかもしれない日。不安に思わないわけが無いのだ。

「………ロゼ、……おきてる?」

先に起きていたのであろうミヤはこそこそとロゼの眠るベッドの方へと歩み寄る。ロゼは布団の中に潜り込んで動かない。寝息は聞こえない為起きてはいるのだろうけど。

「えっと…あのね、ミヤ…ロゼのこと応援するから!だから、だからね、えっと…、…その」

昨晩から元気がなさそうだったロゼを励まそうとしたのだろう、彼女は明るい声調でそう言ったが、次第にその声は段々と小さくなっていってしまった。

かける言葉が見当たらずそのまま自分のベッドへ戻ろうとした時、もぞもぞとロゼがベッドの中で動いた。暫くしてひょこりと顔を出したロゼは、不機嫌そうな表情を隠そうともしていない様子だった。

「そーゆー変な気遣い?みたいなのいいから。ていうかお前下手すぎだろ、なんの励ましにもならねーよ」

そう言ってミヤをからかってケラケラと笑うロゼはいつも通りだった。それに少し呆気に取られつつも、どこか安心したような表情でミヤは笑う。

ミヤとロゼのやり取りを眺めていたのであろう何人かの他の兄弟達も2人の周りへわらわらと集まってくる。

「ロゼちゃん、大丈夫…?昨日ご飯食べなかったでしょ?」

「心配すんなって、オレはそんなヤワじゃねーよイソラ」

ガヤガヤと、ほんの少しだけいつもの賑やかさが戻ったような気がする。そんな中、ぼんやりと窓を眺めるエスピダの姿に気づいたのはセシリアだった。

彼はずっと、外の景色…恐らくコロシアムが建っているであろう場所の方をベッドに腰掛けたまま見ているようだった。セシリアは胸の前で手をぎゅっと握り、一歩、彼の方へと近づく。

エスピダは気づいているのか居ないのか、セシリアの方を振り向こうとはしない。彼の近くまで来た時、セシリアは彼の名を呼ぼうと口を開く。

「……ねえ、エスピ__」

ピーガガガ、ガ、キィン。

「!」

『おっはよ〜子供たち!今日も良い朝だねえ、よく眠れたかな〜?』

セシリアのエスピダを呼ぶ声は、悪魔の声によって遮られてしまった。

相も変わらずそのふわふわとした声に警戒を示す子供たちを見て、アーテルはくつくつと笑いながら言う。

『大丈夫、まだゲームまでには少し時間があるからね。これはただのモーニングコール。ほら、今頃みんなの大好きなシスターが朝ごはんでも作ってるんじゃない?』

「最悪なモーニングコールね」

不快感を表情には出さず言葉だけでそういったルーナの声は何処と無く冷たく聞こえた。

『あはは、まぁみんな起きてるみたいでよかったよ!じゃあ僕は一旦失礼するよ、また後でね〜』

ブツリと音が消える。それと同時にラーナが子供たちを連れて1階へと降りていく。

「どうしたのセシリアさん、早く行こ?」

いつの間にか立ち上がっていたエスピダがそう言うと、彼もラーナの方へと続いて行った。

「あ…、」

自分の前を横切って行くエスピダに手を伸ばそうとして、…やめる。セシリアもまた黙ってエスピダの後を追って1階へと降りていった。

 

✝︎◆✝︎

 

先に来ていたサビクとチェカが準備を進めていた為1階に降りれば直ぐに朝食を食べれた。しかし食卓はいつにも増して静かだった。時折サビクが場の雰囲気を和まそうとしたが、あまり上手くいかなかったようだ。

辺りを見渡せば、皆が暗い顔をしていた。いつもの明るい笑顔で笑う弟妹達はそこにいなかった。それがなんだか寂しくて、寂しくて、寂しくて。

椅子の背もたれにだらりと身を預けサビクは諦める。どう足掻いても今の自分にはこの空気を変えられない。

ただ居心地の悪い時間が過ぎていく中、ふと、サビクがぽつりと呟いた。

「……ゲームって、本当にやらなきゃいけないのかなぁ」

その言葉に反応を返す者はいなかった。だから、サビクはさも独り言のように続けた。

「朝起きて、みんなでご飯食べて、歯磨きして、シスターのお手伝いした後一緒に遊んだりして、悪いことをしたら叱られて、お仕置もされて」

「時々喧嘩だってする、顔も見たくないって思ったり、嫌いだって思ったりもする。けど夜ここに集まる頃には何も無かったみたいにみんな元通りになってて、怒ってたこともどうでもよくなって、仲直りして、ごめんねって笑いあって」

サビクの言葉にはどこか重みがあるように感じれた。それは彼が心の奥底から、この孤児院の家族を大事に想っている証拠なのだろう。そしてその独り言とも取れる言葉はどんどん力無くなっていく。

「…いつも通りの一日、いつも通りの毎日、いつも通りの平和にいつも通りの幸せ…」

「……俺たちずっと一緒にこうして幸せに暮らせると思ってたのに。…それじゃあ、だめなのかなぁ」

言葉の最後は今にも消えてしまいそうな程に小さな声だった。机に突っ伏して何も言わなくなったサビクを見て、子供たちもまた、何も返せずいた。

そんな中チェカは、いつも以上に弱った様子のサビクを見つめて彼の頭を小さく撫でる。いつも自分がしてもらっているみたいに、優しく、優しく。

「…ごめんチェカ。ごめんね皆…カッコ悪くて」

チェカの手の温もりを感じながら、サビクは顔を伏せたままくぐもった声でそう言った。そしてそんな2人の様子を見て、ラーナもまた、どこか悲しそうにぽつりと呟いた。

「…きっと、神様はそれじゃ許してくれなかったんだろうね。僕らはサビクくんが思っていたよりも"純粋じゃなかった"から。僕らみんな秘密を隠してる」

確かに彼の表情は憂いを帯びていた。しかしその言葉は、ラーナにしては少し冷たいような雰囲気をも感じれた。そして彼の発言にぴくりと反応した者も何名かいた。

ルーナは視線を合わせない。パロディは俯いたまま。ミアはぎゅっとジャックを抱きしめ、イソラは胸の前で手を握りしめる。ロゼは表情を変えない。エスピダは退屈そうに頬杖をついたまま。

「ラーナ、サビクのこといじめないで」

チェカはラーナをキッと睨みつけてそう言った。無論ラーナにサビクを傷つけるなんて意図は無かった。けれど兄思いなチェカにとって、今の彼の発言はサビクを更に追い詰めてしまうと判断したのだろう。

それを察したラーナは申し訳なさそうに笑った。

「ごめんねチェカちゃん、サビクくん。…そういうつもりじゃなかったんだ」

チェカは何も言わない。ふいと顔を逸らしただサビクだけを見つめた。

凍てついた空気が食卓を覆い潰す。いつかの団欒など面影も残さないそれは、まるで死刑を待つ罪人のような、そんな気持ちにすらさせられる。

しかしその時、キィン…とその空気を良くも悪くもガラりと変える音が鳴り響く。

『お話中の所ごめんねぇ、さて!みんなお食事タイムは終わったかなあ?』

次いで聞こえた声はつい先程聞いたばかりの男の声。まるでタイミングを見計らっていたかのような登場だった。

『さて…そろそろみんなお待ちかねのゲームの時間がやってきたわけだけど。とりあえず皆外に出よっか?なんか空気重いしね』

ケラケラと笑ってアーテルがそう言った。誰も彼の言うことに従いたくはないだろう、しかし逆らえばどうなるかは分かっている。子供たちはそれぞれ重い腰を上げて外へと向かった。

外は相変わらずの晴天だった。草原を掛ける風のせせらぎが心地良い。けれど気分は全く晴れないまま。

『さて!あちらに見えますのが前に話した通り、みんなのゲームの舞台となる天蓋特性コロシアム!ゲーム参加者の2名にはあそこへ入ってもらうよ』

全員が外へ出たのを確認した後、アーテルは意気揚々と言った様子で解説を始めた。

「待って下さい、ゲーム参加者のみ…ということは、僕達は……どうするんですか?」

『いい質問だねひかりくん。ゲームに参加しない皆はこの屋敷の中でお留守番だよ!』

『でもずっと何もしないまま待つだけってのは退屈だろ?だから、屋敷の中にいくつかモニターを用意する。そこからゲーム参加者の様子を見ることができるよ』

『さて、肝心のゲームシステムについてだけど。まずこのゲームに制限時間はナシ!どちらかが脱落するまで終わらないシステムだ。どんなに時間をかけたって構わない、僕は一切干渉しない。葛藤こそが一番の見所だからね、邪魔をするなんて無粋な真似はしないよ』

『武器に関してだけど、ゲーム前にコロシアムへ持ち込もうとしても持ち物はみんな消されるから注意してね!代わりに君たちの運命を作用する武器は、君たちが"望んだ時"に手に入れることができるから安心して』

『ゲーム中はコロシアムからの脱出は不可!でも片方の脱落を確認したら出れる仕組みになってるから心配しないでね』

アーテルは淡々と説明していく。あまりの情報量にロゼは顔を顰める。

『あぁそれと。一応救済ルールというか…自己申告すればゲームを途中で降りる事も出来るよ。……まぁ、基本オススメはしないけどね』

『あと!ゲームに選ばれたら基本的に棄権は禁止!サボろうもんならキツ〜いお叱りが待ってるから気をつけてねぇ』

「ね、ねえ」

振り絞るように声を出したのはアシュだった。アーテルはうん?と優しく反応する。

「……その、救済ルールって、使ったら…どうなるの?」

恐る恐るといった様子でアシュがアーテルに訊ねた。

『……うーーーーん』

アーテルは少し考え込むような反応を見せた。その声は何と返答しようか迷っているようにも聞こえる。

『まあ、どうなるかは使ってからのお楽しみかな!そういうのがあった方がドキドキして楽しいだろ?』

ほんの少しトーンの上がったその声で、彼が無邪気に笑っているのだということは容易に想像できた。アシュは納得のいかない様子で俯いた。

「……とりあえずルールはある程度分かったよ。んで、オレたちはどうすりゃいいんだ?」

ロゼは物怖じもせず淡々とそう言った。

『おっノリノリだねぇロゼチャン!後は君達2人にコロシアムの中に入ってもらうだけだよ。まぁとりあえずコロシアムの方まで歩いてってよ』

「……わかった」

ロゼはそう頷くと、迷うことなくコロシアムの方へと歩を進めた。誰もが心配そうに彼女の背を見つめる中、1人。迷わず飛び出したものが。

「っ…ロゼおねえちゃん!!」

「ぐわあーっ!?!」

ロゼの背中に飛び込んだのはミアだった。ミアはほんの少し泣きそうな表情でぎゅうっとロゼを抱きしめる。

「ミア、ロゼおねえちゃんのこと、待ってるねから!おかえりって、ちゃんと言うから!」

「わっ…分かったから離れろってミア…!!」

わたわたと慌てるロゼとここぞとばかりにハグをするミアは、それはそれ仲睦まじい姉妹そのものだった。

「っロゼちゃん、」

ミアに次いで声を出したのはイソラだった。ロゼの視線がイソラの方へ向けられた時、自分から声をかけたもののイソラは少し躊躇ったように胸の前でぎゅっと自分の両手を握りしめる。

えっと、と1度口ごもり数秒の間の後でようやっと言葉を紡ぐ。

「えっとね、私、…私も、ロゼちゃんの帰りずっと待ってるから!おやつ用意して待ってるから、だから、えぇと…」

言いたいことが上手く纏まっていないのか、イソラはあわあわと目線を右往左往させる。が、一度大きく深呼吸をした後、真っ直ぐロゼの瞳を見つめて微笑む。

「…絶対、帰ってきてね」

その優しい笑みを見て、照れ臭さかったのかロゼはぽりぽりと頬を掻きながら目線を逸らす。

「わーってるって、ちゃんと帰ってくるよ!大袈裟だな全く…」

ロゼの反応を見て安心したのであろう、イソラの強ばっていた体からふっと力が抜けた。

一方エスピダの方も皆に見送りの言葉を掛けられていた。

「いいですかエスピダ、どうなるかは分かりませんがあまり無茶はしないように」

「あはっ分かってるって〜」

「もし怪我したら僕にお任せ下さい、ありったけの消毒液を浴びせますので」

「わあ、怖いねニコラスさん」

「…エスピダ、おれ……ロゼにも、エスピダにも無事で帰ってきて欲しいよ、だから…その、…待ってる、からな」

アシュは少し自信なさげにそう言った。アシュにとってロゼもまたエスピダと同様に大切な家族だったから。だからこそどちらにも、無事で帰ってきて欲しいと願うのだ。

「うん、わかってるって!」

エスピダは屈託のない笑みを浮かべてそう言った。その笑みに釣られるようにアシュもまた少し微笑むのだった。

皆がそれぞれ声をかける中、パロディだけは、エスピダに声をかける様子は無かった。何と言えばいいか分からなかったのもあるが。

それを見越してエスピダの方からパロディへ近づいた。

「パロディさん」

「うぇ、……な、何」

「僕 頑張ってくるね。だからパロディさんも僕のこと応援してくれるとうれしーな」

パロディの手をきゅっと握ってエスピダは明るく笑った。その笑みを見てパロディは何やら驚いたような顔をするが、握られた手にぎゅっと握り返す。

「分かっとるよ、…頑張ってきいや、エスピダ!」

「うん!」

エスピダの笑顔に釣られるようにしてパロディもいつもの笑みで笑った。ニコラスはうんうんと頷きながら2人の様子を見守っていた

「おいエスピダさっさと行くぞ」

「わ、待ってよロゼさん〜!」

色々なやり取りを済ませたのであろうロゼが先々とコロシアムの方へ向かう。エスピダもそれを追いかけようと駆け出す。が。

「まっ、て!エスピダ!」

彼を呼び止めたのはセシリアだった。エスピダはきょとんとした顔で振り向き彼女を見つめる。セシリアはエスピダの元へ近づき、彼の手を取ると、その指に可愛らしい四つ葉のクローバーを巻き付けた。

「これ……お守り。エスピダが、無事でいれるようにって、セシル…お願いする」

そう言ってセシリアは真っ直ぐにエスピダの目を見た。その瞳を見て不思議そうな表情を浮かべていたエスピダが、ふっと笑う

「わざわざ僕のために?あはは、セシリアさんて本当変わってるね。…ありがとう」

彼はセシリアの手を握り返し優しく微笑んだ。

その微笑みを見て、セシリアの胸がきゅうっと熱くなる。自然と緩んでいく頬を隠すことなく、セシリアもまた、にへりとエスピダの方へ笑みを向ける。

そうして別れを告げた2人は草原の奥に見える異質なコロシアムの方へと歩んでいく。他の子供たちが屋敷の中へ戻っていく中、セシリアは、2人が見えなくなるまでずっと見つめていた。

 

✝︎◆✝︎◆✝︎

 

『到着〜、ここが入口だよ』

アーテルがそう告げると、コロシアムの入口であろう門がゴゴゴゴと音を立ててゆっくり開かれていく。中を覗いてみると、そこは何の変哲もないグラウンドのような殺風景な場所だった。

『中に入って、真ん中の方に2人で並んで立って』

言われるがままに中へ入ると、そこは思ったよりも広い空間だった。本当にこんな場所でゲームを行うのか?と疑いつつ2人は言われた通り真ん中へ立つ。

『ok!準備完了だね!それじゃあ…行くよ2人とも、"衝撃に備えて"』

「…衝撃?なんの__」

ロザがそういった途端、突然頭にズキりと鋭い痛みが走る。突然の異変に驚いていると、次いで起こったのは辺りをじわじわと飲み込んでいく青い光の線。

それらはじわじわとこのコロシアムを覆っていき、殺風景だった景色は見る見るうちに姿を変えていく。煉瓦、アスファルトの床、古びた街灯、壊れかけのビル、廃屋と化した店、瓦礫、ガラスの破片……

「…おい、ここって…!!」

『そう!君たちの記憶を元に作られた"ゴミの世界"で〜す!』

先程まで自分たちは確かにコロシアムという空間にいたはずだった。しかしそこはいつの間にやら、かつて己が必死に生きもがいていた世界…「ゴミの世界」への姿を変えていた。

「すっごーい!何これどうなってるの!?」

『君たちの記憶から再現させてもらった君たちの"故郷"さ!完全再現とは行かないだろうけどある程度は記憶通りに作れてるはずだよ』

あまりの非現実的な現象にロゼは驚きを隠せないでいた。かく言うエスピダは見たことない不思議な現象にキャッキャとはしゃいでいた。

『そうだ言い忘れてた。この場所には基本君達しかいないけど、もしここで"何か"を見掛けたとしてもそれはゲームの進行を妨げるものではないから安心してね〜』

「は?おいそれどういう」

『それじゃあここから僕は通信を遮断して観察に移らせてもらうよ、この空間内でどうゲームを遂行するかは、……君たち次第だ!』

「っおい、待て!」

ロゼが呼び止めるも虚しくアーテルは居なくなったようだった。一体どうなっている?どうして突然建物が現れた?どうして景色が変わった?そもそも、記憶から再現だなんてどうやって?"何か"って何だ?

考えても分からないことばかり。ただ分かるのは、この空間は"本物のゴミの世界"という訳では無いということ。その証拠に、この場所には自分たち以外の人物が誰もいない。人の気配1つしない、空虚だった。そんな中変わらず真っ青な晴天にどこか気味の悪さすら感じる。

「ねえロゼさん!僕探検行ってきていい!?」

「はっ!?おまえ何言って…」

「だってここ僕らの記憶通りに作られてるんでしょ?どうなってるか気になるじゃん!」

そう言ってエスピダはロゼの返事を待つことなく浮き足立った様子で街の中へ掛けて行った。おい!と一声呼び掛けるも、好奇心旺盛な彼が止まることは期待できない。

1人になったロゼは、はぁ…と深い溜息をつく。自分が予想していた"デスゲーム"とはあまりにも違っていた。武器を渡されてハイ殺しあって下さいじゃないのか?こんな場所で過ごさせてどうしたいんだ?などと疑問は尽きない。

「……しかも全然久しぶりでも何でもねえし…」

ロゼはこの孤児院の中でも最近やってきた子供だ。それこそまだ1年も経過していない。つい最近まで自分はこのゴミの世界を放浪していたのだから、懐かしさも何も感じない、むしろ憂鬱。

「…まぁとりあえず適当に歩いてみるか…」

取り残されたロゼもようやっと、探索を続けることにしたようだ。